原状回復ガイドライン【国土交通省発行】はオフィスの原状回復に有効!?
国土交通省が発行している原状回復ガイドラインは、オフィスの原状回復に、ほとんど適用されません。
なぜなら、国土交通省のホームページに原状回復ガイドラインは、「民間賃貸住宅を想定」を想定していると明記されているからです。
国土交通省
このガイドラインは、賃料が市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定しています。
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html
原状回復のガイドラインに書かれている内容は、オフィスを借りている法人(賃貸人)とオフィスを貸し出している法人(オフィス管理会社)の間で交わした契約の内容や、退去時の原状回復を想定されて書かれていません。
しかし、平成17年8月26日に東京簡易裁判所で、「オフィスの原状回復においても、原状回復費用はガイドラインに沿って算定すべき」という判例が出ました。
オフィスの原状回復にもかかわらず、国土交通省の原状回復ガイドラインが適用されるべきという判決は、次の3点が考慮されています。
- 1.オフィスは、築20年の中古物件にある住居用の小規模マンションの一室
- 2.事務所として使用するために、コピー機とパソコンのみを設置
- 3.従業員は、2名だけ
マンションの1室であり、2名の従業員だけのオフィス事務所である場合、契約内容は住居用の
賃貸借契約と変わらず、大規模オフィスと同等な賃貸借契約と見なすことは難しいとの判断でした。
つまり、この小規模オフィスの原状回復は、住居用の賃貸借の考え方が適用されるため原状回復ガイドラインにそって算定されるべきという結論になっています。
平成17年の判例以降、オフィスの原状回復において範囲や算定方法は、国土交通省の原状回復ガイドラインの影響を多大に受けるようになっています。
全てのオフィスに対して、原状回復ガイドラインが適用されれば分かりやすいのですが、先述の通りオフィスの原状回復ではガイドラインが不適用となる場合がほとんどです。
では、なぜオフィスの原状回復にガイドラインの適用が難しいのでしょうか。
その理由を、まとめてみます。
全てのオフィスの原状回復にガイドラインが適用されない2つの理由
原状回復ガイドラインが適用されない1つめの理由
ガイドラインを適用すべきとされたオフィスは、築20年のマンションの1室です。
また、賃料は月々12万8,600円、敷金は25万7,200円とあります。
少人数、小規模オフィスであり、中古物件であり、他の部屋が住居用として使用されていました。
一方、法人のオフィスが入るビルは、賃料が住居用の物件よりも数倍高く、住居用として使われることはほとんどありません。
このように、通常のオフィスは、マンションの1室と同じように扱えない点が、第一の理由になります。
原状回復ガイドラインが適用されない2つめの理由
国土交通省の原状回復ガイドラインに明記されているように、オフィスの原状回復のルールは、入居前に交わされる賃貸契約の内容で決定されます。
オフィスの契約内容であったとしても、マンションの1室のような小規模オフィスの場合、原状回復は、国土交通省のガイドラインに沿うべきだと判例は出ています。
しかし、オフィス利用として契約した際に発行された契約書に、「原状回復は、賃貸人の義務である」と一文が入っている場合があります。
仮に、「原状回復は、賃貸人の義務である」と契約書に書かれていた場合、契約書の内容は有効であると判断されます。
オフィスの原状回復は、賃貸人の義務となり原状回復ガイドラインは適用されません。
オフィスの原状回復は、契約書に書かれている内容が最重要という点が、第二の理由になります。
さらに付け加えると、オフィスの規模も重視されます。
従業員数1名程度の場合はマンションの1室と同等扱いと考えても自然ですが、50人や100人という規模になれば、マンション1室と同等と考える方に無理があります。
もちろん、国土交通省の原状回復ガイドラインも適用できないのは明白です。
オフィスの原状回復は、小規模である方が珍しく、契約書の内容が重視されます。
オフィスの原状回復は、賃貸人の義務とされている事務所が多いと言えるでしょう。
国土交通省
小規模事務所の賃貸借において、原状回復費用はガイドラインにそって算定すべきとされた事例
http://www.retio.or.jp/info/pdf/65/65_07.pdf
オフィスの原状回復において、トラブルになりやすいポイント
住居用の原状回復以上に、多額の費用負担が生じるオフィスの原状回復の内容を完全に把握することは難しく、多くのトラブルの原因になっています。
国土交通書の原状回復ガイドラインの一節にもあるように、原状回復は退去時の問題ではなく、入居前の契約書の段階で重要なポイントとして認識しておくことが大切です。
契約書に書かれていることは、最重要視されます。
原状回復の算定方法や負担分、指定業者等を、しっかりと認識しておくと未然のトラブル防止につながります。
入居前には、オフィス管理会社立ち会いの下、原状回復のガイドラインを参考にしながら入居前の状態を確認し、図面への記入や該当箇所の写真撮影を行ってください。
写真は、管理会社のカメラで撮ってもらい日付入りの写真を双方で管理しておけば退去時の問原状回復トラブルも回避できます。
原状回復ガイドラインは、参考にされるものであって法的な力はありません。
国土交通省のホームページでも、賃貸借契約締結時において参考にするものだと書かれています。
オフィスの原状回復時には効力を発揮できませんが、入居時の契約では大変に参考になるものです。
オフィスの退去が決まり、新しいオフィスの入居が決まった際には、原状回復ガイドラインの一読をして損はありません。